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『うまいぞ秋の京都』～京都・中京区～

【そばじま】

「おこしやすぅ～！」
蕪（かぶら）の柄の暖簾をくぐると真っ先にこの言葉でお出迎え。ラッキーなことに、元々風情のあるこの街（京都）でも紅葉が美しく、そして食べるものが特に美味しい秋に仕事でやってきた。「そばじま」には、午後からの仕事の会場から非常に近いという、ただそれだけの理由で訪れた。にもかかわらず、自分自身の嗅覚が優れているのか、美味しいものとの巡りあわせが良いのか、非常に好印象の店だった。

割烹スタイルのこの店はカウンター席が6席と奥に座敷がある、こじんまりとした清潔感のあるお店。ご夫婦二人で切盛りしているようだ。この時は、奥座敷にカップルが一組、カウンター席に常連さんらしきサラリーマンが2組。わたくしは入って一番手前のご主人の丁度目の前の席に着いた。

日替わりの定食2種の中でおすすめを出してもらうことにした。常連さんと奥さんの京ことばをBGMに待つこと5分。おすすめの定食がやってきた。内容はメインの鶏肉の焼物に、煮物、味噌汁、漬物、そしてご飯。

たっぷりの大根おろしとネギ、細切れにした紅生姜、そして尖っていない少し甘めのお酢をかけたさっぱり仕上げの鶏肉は丁寧に焼台で焼くところから始まりお昼の定食でもけっして手間をおしんでいないところが嬉しい。元々酢の物が好きなわたくしであるが、これは酢の物が苦手な方が食べてもきっと美味しく食べられる絶妙の酢加減なのだ。南瓜と小芋の煮物も甘さほど良く、漬物一つを取っても京都らしい上品な盛付け。

早速カメラを取りだし（わたくしにとってはごく当たり前の行動であるが）、一応ご主人に写真の許可をいただく。

自分：「すいません。ちょっと料理の写真撮らせてもろていいでしょうか」

主人：「（ちょっとびっくりした様子のあと）あっ、どうぞどうぞ。適当に動かしてもろて結構ですよ。」

そして肝心のご飯はというと、これがほんまに上手に炊いてあってびっくり。ツヤ良く、盛付け良く（量も良く）、歯ごたえしっかり系の食感とかなり本格的。思わず箸を止め、ご主人に質問。

自分：「これは、何処のコメを使ってるんですか？」

主人：「今は長野産のコシヒカリを使ってます。時期によって産地が変わりますけど。」

自分：「いやぁ～！びっくりしました。うまいですねぇ。」

主人：「ありがとうございます。うちのご飯は昔からよう誉められるんですが、納めてくれてる米屋がほんまにええ米屋でね。わたしらは、コメ見ても素人で何処のコメや分かりませんし、全部米屋さんに任せてあるんですわ。」

すごい信用である。うちも米屋だけにこれはお客さんからの最高の誉め言葉である。いっぺんでええからお客さんからそんな言葉を言われてみたい、と心で叫びながら、

自分：「でも炊き方も大事ですし、ほんま上手に炊けてますよね。」

主人：「ありがとうございます。確かに炊き方も大事ですね。うちもちょっとでもご飯がおかしいと米屋さんに電話してみるんです。そしたらその米屋さん、自分とこでコメ炊いてジャー持って飛んできますよ。」

自分：「うちも実は米屋なんでその話、よう分かります。」

主人：「米屋さんですか。そら失礼しました。釈迦に説法ですなぁ。ハハハ」
（会話を途中省略しているが色々とご主人とコメの話で盛り上がった）

食べ終えた後、横に置いているカメラを見ていた奥さんに

自分：「いや、自分で食べたものを記録してるんです。せっかく食べた美味しいものを記録してないとすぐ忘れてしまうもんで。もったいない思いまして。」

奥さん：「そらええことですねぇ。」

自分：「ありがとうございます。時々変わった目で見られることもありますけど。」

とこんな会話をしながら、すっかり居心地の良いこの店の雰囲気を気に入ってしまった。

祇園の有名な料亭ではなく、今回偶然出くわした、ちょっとした路地にある「そばじま」。こんなうまい定食を出す店がさりげなくあるあたりに京都の食文化の高さと深さを感じずにはいられなかった。いい意味で気取らず、地元のサラリーマンも普通に通っている店だけにとても落ち着いた心地の良い昼食を堪能することが出来た。
（しかもお代は丁度1,000円。絶対お値打ちの定食。）

「よろしゅう、おきばりやす」
最後も奥さんの京ことばで気持ちよく送り出してもらい、颯爽（さっそう）と車に乗込み午後からの仕事に向った。が、10分後一番肝心なことを忘れていた。
しもたっ！！！　米屋さんの名前聞いとくんやった！

食堂メモ

店名	そばしま
住所	京都市中京区間之町通二条上ル
休み	日祭日
TEL	075-222-1411
営業時間	AM11：30～PM01：00 PM05：00～PM10：00